第57話 side kira

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──── 「今週、どうだ? 」 週始めに大友がそう言って、その週の終わりに飲みに行った。 3人でガヤガヤとした呑み屋で。まあ、俺達だけの時は女性客が少ないような店がいい。いつも通り大友と俺が話すのを結城が無表情で聞いていた。 ここ最近の事情や、来月からの会社の事情。上層部からの情報によると、営業にも数人入ってくる。 「もう、いいんだけどね」 ほぼ、男ばかりの採用に、気を遣われてるのがわかる。今月の頭に、上層部との面接で異動が決まった人もいるのか。俺たちはこのまま営業だ。 「佳子ちゃん、辞めないよね? 」 「辞めない……はずだけど……」 「おお、そっか。新卒は事務もいるだろ? ……結婚したら辞めたり……」 「結婚は11月だ。まだまだ」 「決まったのか? 」 「ああ。11月26日。先週、向こうの親に挨拶に行った」 「……仕事早いね。喜んでただろ? 佳子ちゃんも、ご両親も」 「……ご両親はな。本人は……」 微妙な言い方に何かあるのが分かる。 「……結婚したがってたんじゃないの? 彼女」 それで泣いてたし。 「全然。挙式もしなくてもいいって……まあするけど」 「……意外だな」 「さっぱりしてる。全然……楽しみにしてる感じはない」 「おお、それも意外だな。……何? 不満? 」 ドレスとか、わくわくして選びそうなのに。 「準備で喧嘩になる人の気持ちはわかる」 「あはは! お前一人でやきもきしてんだ? 」 「……よく、わからない。何考えてんのか」 「……聞けばいいじゃん」 「まあ、な。まあ、いいか。ってなる。彼女が横にいるだけで。……で、何も進まない」 佳子ちゃんがいたら、まぁ、いいか。って……。こいつ、結構な事言ってるけど。でも、こいつに比べたら佳子ちゃんはわかりやすいけどなー。 「お前の方が結婚したいんだ、それ」 「たぶん、そうなんだろうな」 「……一緒に住んでるんだろ? 」 「明日、病院行ってギプス取れたら自分のマンションに帰るってさ。……ああ、今日も……あっち」 その時、結城のスマホからメッセージの通知音がした。それを見てため息を吐く。珍しく、わかりやすく。そして、スマホを置くともう一度ため息をついた。 「佳子ちゃん? 」 「ああ。明日の診察は友達に送って貰うって……そのまま、友達の二次会の打ち合わせ。っていう連絡事項」 「……あれか」 「あれだ」 「あれってなんだよ」 大友の質問に俺が答える。 「年明けにやたら、ランチ行ってた男知らない? 」 「ああ、あれか」 「気あるんだよね。向こうの男。つか、佳子ちゃんも……付き合うって言ってた。……ギリギリ阻止したよねー」 「……で、ため息? 」 「それもある。けど……何だろうな……来月で向こうのマンション引き払うんだけど……それまで向こうに居たいって……」 「お前といると、疲れんじゃね? 」 「マリッジブルー? 」 「ご両親に一緒に住む許可貰ったら、これだもんな。……交際期間がないから……って。わからないな、女性は」 「言っても、あと1ヶ月もしたらずーっと一緒だろ? いんじゃないの? 」 「……温度差が……」 「あーお前、初めてだもんな。自分が好きになんの」 「佳子ちゃんは、なんだかんだ言っても……常に彼氏いた人だからなー」 「悩め、悩め。ようやく、ここまで来たんだ。お前は……」 「そうそう、口に出せ。話し合って、気持ちぶつけて、向き合え」 「人間への第一歩! 」 「明日はもれなく、一日モヤモヤするやつだな」 「結婚前に羽目外すやつ」 そうからかうと 「……おい」 睨まれた。何かある事はないだろうし……。 「とりあえず、おめでとう! 俺たちの中で一番乗りだな」 一番、縁遠そうなやつが。不思議なもんだな。
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