いつかのいつか side kira

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 気を取り直して、麗佳に向き合う。 「で、さっき言いかけたことだけど、麗佳……さん? 」  麗佳はぱっと顔を上げて俺に訝し気な表情で対応した。何で怪しむんだよ、っての。目の前にピラピラとチラシを振って見せると綺麗な目が見開かれた。今週の日曜にオープンする和菓子屋と洋菓子店がコラボしたカフェの案内だった。 「……ええ、知ってるわ。でも……吉良くん、顔が甘い分、甘いもの苦手でしょう? 」 「顔と反比例する法則はないけどな? 麗佳が行きたいなら行くよ」 「いいの? 結城くんも甘いもの苦手だって言うから、佳子ちゃんと一緒に行こうかって話してたの」 「うーん、あれだけ佳子ちゃんが行きたがってるんだから、行くと思うな、あいつは」 「……そうね。彼、優しいもの。あなたと同じくらいね」  にこり微笑む麗佳に、随分柔らかくなったなと嬉しくもあり、心配にもなる。そんなことで、と情けなくもなって、最後に愛おしさがこみ上げて腕に力を込めた。 「いつまで吉良くんって呼ぶ気? 」 「えっと、そうね。結婚するまででどうかしら」  ……ちゃんと期間決めてんのかよ。そういう意味じゃなく……ま、いいか。何か、麗佳に『吉良くん』って呼ばれるのもあと少しかと思うと、これも悪くないか。  ――とにかく、麗佳のやってみたことを叶えるのは、俺の仕事だ。きっと、“新店オープンのカフェに行く”のもやってみたいことの一つだろう。
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