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案の定、&はすごい列で、だけどその列にも並んでみたかった麗佳は、俺の隣で屈伸を始めようとしたので止めた。
「ほら、麗佳。こんな時間は運動に使わずに、おしゃべりを楽しんで」
「ええ、わかったわ。私は、おしゃべりが苦手だけど、あなたとならきっと楽しいでしょうね」
なんて、随分可愛いことを言う。
「そうだね。じゃあ、俺が喋ってるから横で聞いてて」
「ええ。結城くんと二人の時はね、私も彼も話さないから、ずっと沈黙なの。でも、彼との沈黙はなぜか平気だわ」
「ああ、同類ね、同類」
そんな話をしてると、前に二人を見つけた。思ったことを直ぐ口にする女と、思ったことをよく吟味しても口にしない男。あれで夫婦だっていうんだから、全くよくできている。
長い列を振り返ると、知ってる顔がさらに目に入った。俺よりデカイ奴は滅多にいない。とっくに俺に気づいていただろうに、気づかない振りを決め込む大友にそっとしといてやることにした。横の奥さんのことをじっと見つめている。いつもの凛々しい顔はどこかへ、少し眉の下がった顔は仕事では見せたことがない。……と、その後ろにまた知ってる顔があった。
宮さんは俺に気づくとにっこり笑って手を挙げた。それから、困ったように肩をすくめた。横の彼女は視野に彼しか入っていないようだ。はは、おっかしい。「かわ……」おっと、慌てて口を閉じた。
よおし、スマホを持ってコールする。
「おー、さっすが。前の方にいるじゃん。佳子ちゃん喜んでんじゃね。お前も、愛だな。てか、合流したくても人多くて無理っぽいな」
不愛想な男が、はっきりと言った。『合流する気はない』へーへー、ソウデスカ。邪魔はしませんよ。
結局、好きでもない物のためでも、好きな女のためなら並ぶわけだ。いいね。
道行く人が、麗佳を見て息を止める。振り返ってまで見る男もいる。その後俺と目が合って気まずそうに去って行く。……だよなぁ、綺麗だよなぁ、この人。出来れば、まぁ。スッと自分の内側に麗佳を入れた。
「どうしたの? 」
「いや、隠してんの」
麗佳が不思議そうに俺を見上げた。いいの、いいの。俺だけ見えたらいいの。
麗佳は定番の桜餅といちごのショートケーキを選んだ。「私のこんな冒険しないところがおもしろくないのかしら」なんて言うから。コラボ商品も一つ勧めた。すると、クリーム大福を選んだ。
「ほら、あなたは顔が甘いから」と。どういうこと、これ。
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