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「そうだわ、吉良くん」
「はい、何でしょうか」
何とか心を落ち着かせて返事をする。
「もうずっと、ずっと前の話なんだけどね」
「うん」
「あなたと大して話したことが無かった頃のこと。あなたについての噂を聞いたことがあって」
あの、嫌われてた頃か、と複雑な気持ちになる。
「噂ね、どんな? 」
そう悪口言われることはしてないはず、と自分の言動を思い返す。
「あなたと目が合うと妊娠する……」
「ゴ、ゴッホゴホ」
「あら、大丈夫? 」
「んん、何だそれ。んなわけ、」
「それってどうやってかなと思って」
いやいやいや。
「あのねえ、麗佳。俺が麗佳しか触れないの知ってるだろ」
「ええ。だから触らずにどうやって……」
「麗佳! 」
これだよ、これ。この人すんごい天然で困る。
「あなたなら出来そうな気がしたものだから」
そう言ってはにかんだ。どんなだよ、俺。目から何でてんの。
「ったく。触れずには妊娠できません」
「ええ、そうね。じゃあ、来年あたりは子供がいるかもしれないわね」
急に現実的な話になって、俺の方が嬉しくも恥ずかしくなる。麗佳はちょっと生々しいところがある。
「そうだね」
「あなたとなら、子供が出来ても楽しいでしょうね」
「ありがと、そう言ってくれて」
「ええ、私もあなたを楽しませられるように、努力をするつもりよ。期待していてね」
「へ? あ、ああ。うん、うん? うーん」
十分、楽しいので、そのままでいてください。じっと見つめると
「やだ、妊娠させる気? 」
と、麗佳が冗談を言った。……冗談、だよな。
――――――end
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