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「あ、綺麗だね。これ」
咲きかけの桜の少し濃いピンク。それと、青い空。梓の写真を見せてもらってた。
「うん、綺麗なものが好きで……」
俯きがちで、おどおどと小さな声で話す。
「こっちは? 見て良い? 」
「あ! ダメ!!! 」
大きな声で止める彼女を面白がり、立ち上がるとカメラを上に上げて彼女が届かない場所でデータを勝手に見た。
「……俺……? 」
そこには、俺。
「返して」
涙目でそう言って俯いた。
「あー、ほら。綺麗なものが好きなんだもんね」
そう言うと
「自分で言うんだ」
と、笑った。ふわっと暖かい風が吹いた。笑うと可愛い。ほんのちょっと出来る、えくぼ。勝手に見たのは悪かったと、思ったけど。見て良かったと思った。でなけりゃ、気がつかなったと思うから。
「それ、送って」
「……えっと」
「うん。ここに」
そう言って、連絡先を交換した。梓はその画面の俺の連絡先をいつまでも見ていた。嬉しそうに。
「ねぇ」
「はい」
「横に本人いるんだから、こっち見てくんない? 画面より」
そう言うと、チラッと俺を見て、また俯いた。
「何か言うことない? 俺に」
「……ない……です」
「俺……今、彼女いないけど」
「……ない……です」
「卒業したら、会えないよ? てか、もう大学に来ないよね」
「……ない……です」
「記念にでも、どう? 」
「最後だし……? 」
「最後にしたくなくなった。俺」
誰もいないのに、後ろを振り向く彼女に笑うと
「梓に言ってんの」
「何の為に? 」
「どうすんのか、梓が決めて」
「……」
「卒業しても会いたい? これっきりにする? 」
「……会いたい」
「OK、じゃあ、今日から梓は俺の彼女ね」
そう言った俺に、彼女は驚き過ぎたのか全く動かなかった。
「……嘘だぁ」
それだけ言った彼女を抱き締めた。好きだったかは、わからない。けど、そうしたいからそうした。そのまま、持ち帰ってやろうかと思ったけど。
うーん……経験もなさそうだし、その日はそれに留めた。珍しく、考えて……それなりのステップは踏んだ。まぁ、そんなにゆっくり踏んでないけど……。
それでも考えた方だ。……俺にしては。就職して、忙しくなっても連絡もマメに取ったし、付き合ってたちゃんと。
俺はそう思っていた。あんな、別れ方をするまでは。確かに幸せな時間はあった。それでも、梓に関して、俺はきつくきつく蓋をして、二度と思い出さない様にした。
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