第2話 side kira

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「あ、綺麗だね。これ」 咲きかけの桜の少し濃いピンク。それと、青い空。梓の写真を見せてもらってた。 「うん、綺麗なものが好きで……」 俯きがちで、おどおどと小さな声で話す。 「こっちは? 見て良い? 」 「あ! ダメ!!! 」 大きな声で止める彼女を面白がり、立ち上がるとカメラを上に上げて彼女が届かない場所でデータを勝手に見た。 「……俺……? 」 そこには、俺。 「返して」 涙目でそう言って俯いた。 「あー、ほら。綺麗なものが好きなんだもんね」 そう言うと 「自分で言うんだ」 と、笑った。ふわっと暖かい風が吹いた。笑うと可愛い。ほんのちょっと出来る、えくぼ。勝手に見たのは悪かったと、思ったけど。見て良かったと思った。でなけりゃ、気がつかなったと思うから。 「それ、送って」 「……えっと」 「うん。ここに」 そう言って、連絡先を交換した。梓はその画面の俺の連絡先をいつまでも見ていた。嬉しそうに。 「ねぇ」 「はい」 「横に本人いるんだから、こっち見てくんない? 画面(そっち)より」 そう言うと、チラッと俺を見て、また俯いた。 「何か言うことない? 俺に」 「……ない……です」 「俺……今、彼女いないけど」 「……ない……です」 「卒業したら、会えないよ? てか、もう大学に来ないよね」 「……ない……です」 「記念にでも、どう? 」 「最後だし……? 」 「最後にしたくなくなった。俺」 誰もいないのに、後ろを振り向く彼女に笑うと 「梓に言ってんの」 「何の為に? 」 「どうすんのか、梓が決めて」 「……」 「卒業しても会いたい? これっきりにする? 」 「……会いたい」 「OK、じゃあ、今日から梓は俺の彼女ね」 そう言った俺に、彼女は驚き過ぎたのか全く動かなかった。 「……嘘だぁ」 それだけ言った彼女を抱き締めた。好きだったかは、わからない。けど、そうしたいからそうした。そのまま、持ち帰ってやろうかと思ったけど。 うーん……経験もなさそうだし、その日はそれに留めた。珍しく、考えて……それなりのステップは踏んだ。まぁ、そんなにゆっくり踏んでないけど……。 それでも考えた方だ。……俺にしては。就職して、忙しくなっても連絡もマメに取ったし、付き合ってた。 俺はそう思っていた。あんな、別れ方をするまでは。確かに幸せな時間はあった。それでも、梓に関して、俺はきつくきつく蓋をして、二度と思い出さない様にした。
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