第2話 side kira

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────── 確か……この辺りにあったはずだ……。 あった、これだ。偽物(イミテーション)だけど、パッと見わからないだろう。つーか、分かるほど近づくなって話。 ……やりたかった仕事。ほぼ立ち上げのとこから携われるんだ。こんな事で、駄目になってる場合じゃない。出来ることなら、何でもする。すでに、俺のことについては上層部には話をしている。他部署にも、まわってるだろう。 ……大丈夫だ。 くすんで黒くなったシルバーリングを磨き上げ、左手の薬指にはめた。“女()け”。ちょっと緩いが、それっぽい。 結城もいるし、大友もいる。分散されるだろ。あいつらがいれば……。 翌日の初出社に向け、入念に準備した。女性を生理的に近づけなくなって、久しかった。 ──── ……正直、自惚れていた。今までの経験がそうさせた。 肩透かしもいいとこ。それが、初日終わっての感想だった。 一方で、仕事は思っていた通り、こなすにはなかなかの量だが遣り甲斐も十分だ。転職して良かった。 勝負は数日後からだった。社内一通りの研修を終え、5階フロアに営業部が作られることになった。たった5名で形成さる。 広くはない部屋。女性は二人。大友や、結城が外出の時もあるわけで……女子社員と二人。そんな状況も多々、あり得る。どう過ごすか……仕事に集中していても、反応する。勝手に。 ── 席の配置は男女で向かい合わせ。パソコンで仕切られる。加えて、結城と大友で挟む形にしてもらった。 おそらく、事前に大友が話をしてくれているはずだ。 それなのに……。近い。なんだよ、この女。近い。にこにこと、人のパーソナルスペースに入ってくる。 この営業部で事務をしている河合佳子。彼女は……今後も一番接触しなければならない人だ。 近づかれる度に、ぞわり……。鳥肌が立つ。だが、業務の話が終わるとすぐに席に戻った。……それは、用事があるたび、繰り返された。逆に、用事がないと近寄っては、来ないのか。会社であれば、当然といえば当然なのだけれど。 大友の感じから、年下だろう。妙に……仕事は出来るみたいだが。下となると、新卒?あ、短大出てたらもうちょい下もあるのか。悪意はないみたいだ。その……自惚れるような、ことも。 大友にも、結城にも、その距離感だ。そして、いつも、ふわふわにこにこしてる。
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