第2話 side kira

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……“近い”恐らくそう思ってはいるものの、だからといって、どうするわけでもなく対応している男が真横にいた。 俺と一緒に入社したこの結城は、大学からの知り合いで、俺がこの会社へと誘った。能面張り付けた様な無表情に、無口な性格。 彼女に近づかれても、それは崩れない。よく見ると、付き合いが長いからこそわかる。“近い”そう思ってるだろうことが。 思わず、吹き出した。 「なんだ? 」 そう言って俺を睨む男。 こいつは大学卒業とともに、4年も付き合った彼女に振られたというのに、涼しい顔しやがって。こんなにも、病んでいる俺が馬鹿みたいだ。 ……繊細なんだな、俺は。こいつは、仮面みたいに面の皮が厚いんだ、きっと。 とりあえず、あの近さは問題だが……ねっとりとしていない彼女は。そういう興味はないのだろう、俺に対して。そう思うと、幾分気持ちが軽くなった。 それからも、相変わらず距離が近かったが、すぐにほんの少し、下がるような仕草をみせるようになった。 恐らく、大友に聞いたか、彼女なりに気をつかってくれているのだろう……。いつしか、俺の方も歩み寄るように、彼女のスペースに慣れてきた。 もう一人の女性、中条麗佳さんは距離感については全く問題なかった。 これはまた()たく綺麗な子だな。第一印象はこれ。それ以上でも、それ以下でもなかった。 無口。加えて無表情。だが、時々みせる、妖艶さが……あまり近づきたくないタイプだった。 それからも、業務以外でそんなに話す事はなかった。女性同士や、大友とは割りと話していた。それも、相手から話しかけられるとって感じか。佳子ちゃんも大友もフレンドリーだからな。 ──── その半年後に入社してきた相原るなは、新入社員独特の浮かれた感じもなく、キャピキャピした部分もなかった。可愛い見た目に、頭のいい子で、すぐに部の空気を読んだ。 ……ホッとした。 大丈夫。このまま仕事に尽力する。環境は整った。 ──── いつしか、この営業部は俺にとってすこぶる居心地のいい場所となった。間違いなく、この部屋が過ごしやすいのは佳子ちゃんのおかげで……彼女の人柄だ。 仕事面では、間違いなく大友が率先してくれていたし、麗佳さんは女性らしい立ち回りで地盤を固めてくれた。るなちゃんは、クレバーで、細かいところにもよく気がついてくれた。 結城は相変わらず、涼しい顔で我が道を行っている。彼なりには、気をつかいながら。 このままずっと。この環境が続くのを望んでいた。体質は、治したいとは思いつつ……忙しさにかまけていた。いつか、治るだろう。そう思っていた。
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