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第3話 side reika
あれほど、気の重かった営業職も、はや3年近く経っていた。この時の私は27歳。もうすぐ28歳になる年だった。初めてといっても良いほど、人間関係が円滑だった。それが私にとっては嬉しかった。とても良い、職場環境だった。
営業先でよく言われた。
『誰と恋人なんですか? 』
それこそ、もっと下世話な表現でも言われた。“誰と”というのは……うちの営業の男性3人のうちのという事だ。
『そんな関係では、ございません』
何度言っても勘ぐられる。
『お似合いなのに』
誰と?
『では、恋人が? 』
誰に?
これくらいは、大人としては流せないといけないのだろうか。それとも……この質問自体、特に意味のない挨拶みたいな物なのだろうか。
……相変わらず、恋人はいなかった。いや、出来なかった。
あの部署で、はっきりと恋人がいると分かっているのは佳子ちゃんだけ。あと、吉良君は……指輪をしてるから結婚してる。恐らく、男性にしては随分早く結婚したのだろう。それについて話をしたことはなかったし、誰かに聞いた事もなかった。佳子ちゃんと、るなちゃん以外はプライベートな話はしたことがなかった。
────
取引先を出て、時計を確認した。
……この時間だと直帰だ。そう思い、会社へその旨伝える連絡を終えた。
「中条さん」
呼び止められて、振り返る。その人に見覚えはなかった。
「すみません、突然。あの、今度食事でも……」
幾度となく聞いた、その言葉。
「……わかりました」
今から空いてますけど、行きます?そこの居酒屋でも。そう言えたら良かったのに……。空いている。いつでも。もっと、気軽に誘ってくれればいいのに。連絡先を交換し、約束は週末に持ち越された。
そう、いつも相手は構える。きっと、予約してくる“いいお店”を。そんなのは、いらない。ただ、普通に接してくれたらいいのに。思っているほどの、女じゃないのに。
それは、一度会えば分かるのだろうけど。そして、二度目はないのだろう。また、今回も。
次から次へと同じ事が繰り返される。私はいつもそう。こうやって誘われて、それっきり。
変わらなきゃ。私が……。
────
そのまま……一歩踏み出した。一度やってみたかった。
bar【contrast】そう書かれた店のドアをそっと開けた。
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