第3話 side reika

1/5
10967人が本棚に入れています
本棚に追加
/328ページ

第3話 side reika

あれほど、気の重かった営業職も、はや3年近く経っていた。この時の私は27歳。もうすぐ28歳になる年だった。初めてといっても良いほど、人間関係が円滑だった。それが私にとっては嬉しかった。とても良い、職場環境だった。 営業先でよく言われた。 『誰と恋人なんですか? 』 それこそ、もっと下世話な表現でも言われた。“誰と”というのは……うちの営業の男性3人のうちのという事だ。 『そんな関係では、ございません』 何度言っても勘ぐられる。 『お似合いなのに』 誰と? 『では、恋人が? 』 誰に? これくらいは、大人としては流せないといけないのだろうか。それとも……この質問自体、特に意味のない挨拶みたいな物なのだろうか。 ……相変わらず、恋人はいなかった。いや、出来なかった。 あの部署で、はっきりと恋人がいると分かっているのは佳子ちゃんだけ。あと、吉良君は……指輪をしてるから結婚してる。恐らく、男性にしては随分早く結婚したのだろう。それについて話をしたことはなかったし、誰かに聞いた事もなかった。佳子ちゃんと、るなちゃん以外はプライベートな話はしたことがなかった。 ──── 取引先を出て、時計を確認した。 ……この時間だと直帰だ。そう思い、会社へその旨伝える連絡を終えた。 「中条さん」 呼び止められて、振り返る。その人に見覚えはなかった。 「すみません、突然。あの、今度食事でも……」 幾度となく聞いた、その言葉。 「……わかりました」 今から空いてますけど、行きます?そこの居酒屋でも。そう言えたら良かったのに……。空いている。いつでも。もっと、気軽に誘ってくれればいいのに。連絡先を交換し、約束は週末に持ち越された。 そう、いつも相手は構える。きっと、予約してくる“いいお店”を。そんなのは、いらない。ただ、普通に接してくれたらいいのに。思っているほどの、女じゃないのに。 それは、一度会えば分かるのだろうけど。そして、二度目はないのだろう。また、今回も。 次から次へと同じ事が繰り返される。私はいつもそう。こうやって誘われて、それっきり。 変わらなきゃ。私が……。 ──── そのまま……一歩踏み出した。一度やってみたかった。 bar【contrast】そう書かれた店のドアをそっと開けた。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!