第5話 side yu

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第5話 side yu

それから間もなく、俺はイギリスにいた。こっちにも知り合いは沢山いるし、何不自由ない。 ベッドの上に投げ出したスーツケースの中身を取り出すと、クローゼットへ移した。 その底から出てきたのは1枚の古ぼけたカード。小学校の(出会った)頃、よく授業で使ったやつだ。 だけど……印刷された文字ではなく、朋子(あいつ)の達筆過ぎる筆文字。所々読める文字を拾う。 ……なんだっけ、これ。思い出せねぇな。読めるかっつの。ふっ、と笑う。 ピッと指で弾く。 ずーっと、同じ習字教室に通ってたってのに、俺の字は汚ねぇし、朋子の字は達筆過ぎる。 イギリス(ここ)へ来る事を決めてからの少しの空虚感。その原因に気づく瀬戸際で蓋をする。 これからどうなるか、どうするか、どうしたいか……考える時間は十分にある。何より生きてれば、どこに居たって会えるんだ。 会いたいと思ったならば。必要であれば。リアルタイムで連絡も取れる。もう、あの頃の子供じゃない。
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