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朋子は、全然平気そうでいつも通りだ。俺なんて変な汗が出てきたっていうのに。
「ちょっと、裕、日蔭作らないで寒い」
や、春だし。寒くねえだろ。朋子に日が当たるように気を使うと、
「あ、待って。風が強い。もうちょっと前に行って」
「あー、ああ」
今度は風よけに使われる始末。まあ、春は風が強いわな。風で舞い上がる朋子の髪に手を伸ばしかけて途中で下した。……見て、無いよな。誰も。
――ようやく順番が回って来た時には、ホッと息を吐いた。あいつらはもう帰っただろうしな。
「裕、何にする? 」
「俺、何でもいい。朋が食いたいの食う」
どうせ、分けるしな。
「そう? 」
店員が来ると、俺が注文する。ショット追加したラテとブラックコーヒー、それと
「桜餅といちごのショートケーキ。あと、クリーム大福を」
朋子が、ふふっと笑った。
「んだよ」
「え、聞かなくてもわかるんだーと思ってさ」
「あー、まあな」
朋子は定番押さえたいタイプ。あと、ずっと見てた大福。ま、また来てもいいしな。
「裕、どっち先に食べる? 」
「ん、どっちでも」
「そ? じゃあ、こっち、あげようね」
朋子がすっと一口の桜餅を差し出した。小ぶりの桜餅のそれはちょうど半分で、一瞬躊躇する。いないよな、誰も。
「うん、うまいわ」
「そ、良かった」
朋子はショートケーキをそのまま差し出すと、自分も桜餅の半分を口に入れた。
「何だよ。ケーキは俺からかよ」
「うん。自分で食べてね。……だって、裕は恥ずかしいんだもんね」
全然こっちを見ないで、朋子はそう言った。
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