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就業時間を少し過ぎた頃、そろそろ帰るかと立ち上がる。
……今日……か。日付を確認すると、“彼女”が名古屋へ行く日だった。誰も使わない階段の方へ向かうと、1本の電話をかけた。
『……はい』
電話をかけた相手はすぐに出た。
「……そろそろ、名古屋へ行くのかなって。まだ、こっち?」
『うん、もう少ししたら向かうつもり』
目の前を佳子ちゃんが会釈して通りすぎる。片手を上げて対応した。珍しいな、階段?
「ごめんな、見送りも行けなくて」
それから……大切に、出来なくて。特別に思えなくて。
『うん、いいよ。電話ありがとう、またどこかで』
短い電話、会えばまた、話くらいはするだろう。彼女の新しいスタートに水を指すようで申し訳なかった。短い付き合い。“付き合った”とは言えないくらい、短く終わった。遠距離恋愛にすら、ならなかった。
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