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重たいため息を一つ。俺も階段で下りる……か。
1階まで下りたところで、少し前に通りすぎたはずの佳子ちゃんが、居心地悪そうにそこに留まっていた。
「あれー? 佳子ちゃん、何して……」
声をかけた俺に彼女はシッと口に人差し指を立てて、言葉を遮った。口をつぐむと、誰かの声が聞こえた。
……女性……だ。
「ずっとお会いできたらと持ち歩いていたのに、機会がなくて……ボロボロになってしまったのですが……」
「受け取れません。申し訳ないですが……結婚を考えている人が……います」
佳子ちゃんとその場で耳をそばだてる。立ち聞きだ。低く落ち着いたあの声は……結城……か。なるほど、この女性に連絡先を渡されてんのか。佳子ちゃんの表情から、それだけでもないらしい。……告白されたのか、恐らく。
誰かの足音がして、彼女が去っていったのがわかった。
「お疲れー、お前も戻ってきたのかー」
今度は俺達と反対側、つまり彼女が立ち去った方向から良く知る声が聞こえた。
……吉良。
彼女が立ち去ったタイミングで俺達も2人の前に出た。聞いてしまった佳子ちゃんはソワソワと落ち着かない。
ちょっと可哀想なくらいだ。
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