糸悪戯

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兄さんは僕に教えてくれた。 愛にはいろんな形があるんだと。 僕と兄さんが愛し合う事はもう決まっていたんだと。 僕たちがこうなる事はとても自然な事だったんだと。 兄さんは物知りだ。なんでも知っている。兄さんの言う事はいつも正しい。だからきっとそれも、嘘なんかじゃないんだと思う。 だけど、時々どうしようもなく怖くなる。 僕が選択してきた事の全てが、僕が今居る場所が、僕が向かっているその先が、間違っているんじゃないかと怖くなる。 人生に正しい答えなんてない。寧ろ、答えなんて物は存在しない。 そんな事分かっている。だけど僕は弱いから。 弱い僕は誰かに肯定され、認められ、求められなきゃ生きていけないんだ。 「あ…っう、」 ゆっくりと動き出したそれに、苦しさを滲ませた声が零れる。 誰かに、言ってほしい。 これでいいんだよって、間違ってないよって、誰かに、言って欲しいんだ。 ぼろぼろと涙を流す僕を見下ろす兄さんは恐怖すら感じさせる程の綺麗な笑みを浮かべる。 「歩夢は本当にいい子だね」 生暖かい舌が肌を這い、僕の涙を(うば)っていく。 「そうやって、俺の言う事を聞いてればいいんだよ」 僕の世界の中で、兄さんだけが僕を肯定してくれて、認めてくれて、求めてくれる。 ――兄さん 「…死ぬまで一生、ね」 貴方だけが、僕にとっての善なんだ。 完
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