次の日

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「面白い偶然というのはあるものですね。絵本会社に挿絵を提供している男の悩み事を居酒屋で耳にしたと娘から聞きました」 「昨晩、同じ居酒屋にお嬢さんもいらっしゃったということですか」 「そのようです、娘も絵本会社の話だったのでついつい聞き耳を立てていたのでしょう、むしろ盗み聞きをしてすみません」 鈴木は慌てていえいえと顔の前で手を振った。 「娘の話を聞いて、きっと鈴木さんのことではないかと思いました。絵本の会社はもともとそんなに多くありませんしね」 鈴木は昨晩の自分自身の様子を必死に思い出そうとしていた。 親友の村井との二人きりだったこともあり本音しか話してはいない。 「子どもがいる、いないということは鈴木さんと私との付き合いには何の影響もありませんよ、もちろん仕事上もです」 山内はなるべく早く鈴木の気持ちを楽にしてやりたかったようだ。 「むしろ、鈴木さんには子どもがいないからこそあのような挿絵を描くことができるのだろうと、ある意味、私の中で納得がいきました」 鈴木は山内の心遣いが本当にありがたく感じるとともに、そんな山内に結果的に嘘を付いていたことに深く反省をした。 「山内社長、本当に申し訳ありませんでした」 「いやいや、私の方も反省することがあるなと気付かされましたよ」 山内は鈴木への言葉ではなく、自らの言動を真摯に振り返っているようであった。 「正直、結婚している多くの夫婦には子どもがいます。おそらく10組中9組くらいは子どもがいる夫婦のような気がします。知らず知らずのうちに子どもがいない夫婦への配慮というか、心配りというのが疎かになっていたように私は反省をしているんですよ」 鈴木は自分の嘘を許すばかりか、そのことから自らの至らぬ点を反省しようとする山内に身体がじんじんと震えるような思いがした。 「知らないうちに誰かを傷つけてしまうことがあることに謙虚にならないといけませんね」 山内はさらりとそう言うと、先ほどの鈴木の詫びの一件などなかったかのような口調で、新しい仕事の話を始めた。 鈴木は山内のようにありたいと強く思った。 そして、これからも山内と仕事をしたいと願うのであった。 柔らかな日差しが山内の社長室を優しく暖めていた。 image=513342018.jpg
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