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社長室
「お子さんは元気ですか?」
鈴木から納品された挿絵を満足気に眺めながら山内は尋ねた。
鈴木は少し間をおいてはつらつと答える。
「朝から晩まで忙しなくて」
絵本の制作会社を経営する山内がイラストレーターの鈴木と取引を始めたのは5年ほど前である。鈴木が押しかけるように自分の絵を売り込んできたのが始まりだった。
鈴木の描き出す子どもの表情は無邪気さが溢れている。
山内は継続して鈴木に絵本の挿絵をお願いするようになった。
「うちの娘なんか平気で朝帰りするようになって妻に叱られてばかりですよ」
山内は幼かった頃の娘を懐かしがっているようである。
「確か、大学の3年生になられたんですよね」
今、鈴木と向かい合って座る社長室のソファーに幼稚園児の娘が寝転んでいた光景を山内は思い浮かべる。
「今の学生はみんなそんな感じのようですよ。ボクたちだって似たようなものでしたよ」
今の学生の生活をさほど知らない鈴木は山内の心配を和らげるために言葉をつないだ。
鈴木の心遣いに感謝するように白髪交じりの山内がいつもにも増して優しい表情を見せた。
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