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仕事も軌道に乗り、いまさら実は子どもが居ないということを打ち明けるのはとても怖いことであった。
村井から譲り受けた子犬のケンイチローを思い浮かべ、仕事上の架空の子どもとしたのである。
犬のケンイチローはもはや我が子同然だと自分に言い聞かせることで偽っている罪悪感を和らげたかったのかもしれない。
「その絵本の社長さんは本当に良い人なんだよ」
いつもより速いペースでビールを飲んでいる鈴木は村井の肩を叩く。
肩に置かれた鈴木の手を優しく戻しながら村井は我が事のように考えを巡らせていた。
「いつかはちゃんと本当のことを伝えないといけないよな」
鈴木の心の中の答えを村井はゆっくりと口にした。
「そしてしっかりと謝らないといけないな、どういう理由にせよ、嘘を付いていたことには違いがないんだからな」
村井ならきっとこう言うだろうと鈴木はある一面で理解していた。
いや、むしろ村井にそう言ってもらいたかったのかもしれない。
「そうだよな、社長には本当に申し訳ないと思っているんだよ」
「精一杯の誠意をもって社長さんにお詫びするんだな、早いうちに」
村井はそう鈴木を説き伏せるように言った。
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