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次の日
「鈴木さん、私もあなたと話したかったのですよ」
山内は左手にコートを掛けた鈴木を社長室に迎え入れた。
村井からのアドバイスを受けた翌日、鈴木は山内の会社を訪れたのだった。
緊張した面持ちの鈴木は山内が座るのを待って、自分もソファーに腰を掛けた。
あの嘘を言ってしまったのもこのソファーの上だった。
「山内社長、今日はお伝えしないといけないことがありまして急に参りました」
会社を長く経営している山内は鈴木の言葉に少しもうろたえることがない。
「山内社長、すみません、私たち夫婦には子どもはいません」
鈴木はソファーから立ち上がり深々と謝罪の意を示した。
「知っていましたよ」
「へ?」
犬のケンイチローを子どもに見立てた作り話など実際に子育てを経験した山内には簡単に見破ることができたのだろうか。
嘘を付いていると知っていて、これまで取引をしてくれたのだろうか。
鈴木は混乱をしていた。
「うちの娘もたまには役に立つものですね」
「え?娘さん?」
鈴木はさらに混乱を深めていく。
「今朝、娘から聞きました。鈴木さんが我が子のように犬をかわいがってらっしゃることも」
山内は鈴木にソファーに座るように勧めた。
「どうやら、うちの娘が鈴木さんと同じ居酒屋で友達と飲んでいたみたいです」
「お嬢さんが…」
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