19人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「オマエ ガ バッタモン デアルコト ハ ワカッテイル 。 ハンカンレキ ノ パーティー ガ タノシミダ ジョーカーマン ヨリ」
そんな脅迫文が、半還暦――即ち30歳を迎えようとする私のもとに届いた。
古風にも昔の犯罪者がそうしていたように、新聞や雑誌を切り抜いた不揃いなフォントの文字を貼り合わせているものだ。
バッタモンーーつまりは偽物ということか。
差出人はジョーカーマン……ゲームではワイルドカードとして何者にも変わることのできる、あのトランプの札に描かれた怪しげなピエロでも気取っているつもりだろうか?
完全に経営からは離れているものの、私はそれなりに名の知れた総合商社〝エイン・エンタープライズ〟の創業一族にして筆頭株主であるし、たくさんの不動産も所有するいわゆる資本家でもあるので、脅迫文が来てもおかしくはない身分ではある……。
しかし、脅迫文にしては特に金銭を要求するわけでもなく、文面は短く稚拙で、普通ならばただの悪戯と一笑に伏すところであろう。
……だが、私はこれを悪戯だと捨て置けない理由がある。
なぜならば、私はこの脅迫文が言う通りの〝バッタモン――偽物〟であるからだ。
そう……真実を述べると、私は衛院武留本人ではない。
彼はとっくの昔に亡くなっており、本当の私は彼の親友・暮村大工なのである。
あれは、もう10年以上も前の話だ……。
孤児ながらも必死で勉強し、奨学金を得て有名大学に入った私は、そこで本来ならばけして交わることのなかったであろう上流階級の子弟・衛院武留と出会った。
歳も一緒で、同じ経済学部に入学した同期生だったが、一文なしの孤児の私と大会社の創業一族の長男である武留……生い立ちは正反対の、共通点などどこにも見いだせないような間柄である。
ところが、神の戯れか天の気まぐれか? 偶然の悪戯にも私達はそっくりだった。
顔も体型も声の調子も、血液型に女性や味の好みに到るまで、名前と育った環境を除けば何から何まで瓜二つだったのである。
最初のコメントを投稿しよう!