第1章

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『ふふ』 「年賀状、届いたよ。貴女からもらったのって、小学生の頃以来じゃないかな。どうしたの? 突然」 『狩野くんの声が聞きたくなっちゃって』電話の向こうで圭子は笑いを堪えているような声で言った。『って言ったら信じる?』 「信じたいよ」翔弥は笑った。「でも、よくこの番号がわかったね」 『友だちに訊いたの』 「そう」 『ほんとに久しぶり。ねえ、狩野くん、近いうちに会えないかな』 「えっ?!」 『電話で貴男の声を聞いたら、本物の貴男に会いたくなっちゃった。これはまじめな話』 「い、いいけど……、」 『明日、とか、だめかな』 「え? 明日? ずいぶん急な……」 『ごめん、急だよね。でも私、しばらくしたらちょっと忙しくなって、時間がとれなくなりそうなの』 「た、たぶん大丈夫だと、思うけど……」翔弥は少し考えて、決心したように言った。「いいよ。明日。どこかで待ち合わせしようか」 『ほんとに? 嬉しい。じゃあ、明日の夕方6時、駅の前の掲示板のところで待ってる』 「わかった」 『ごめんね。お正月早々、狩野くんもいろいろ用事、あるんでしょ?』 「あれば退屈しないんだけどね」翔弥は笑った。電話口で圭子も笑った。 ◆  明くる日、朝の食卓を家族と共に囲んでいた翔弥は、少し躊躇いがちに口を開いた。 「今日、急に同窓会が入っちゃってさ」 「ふうん」妻は翔弥に目も向けずに言った。 「ゆ、夕方からなんだけど。大丈夫かな」 「別に何もないわよ。和子も今日から部活でしょ?」  みかんを剥きながらその高校生の娘は言った。「そうなんだよー。まったくこんな正月から……」 「帰り、遅いのか?」翔弥は娘に訊いた。 「部活の後、新年会なんだって。食事して、カラオケ行って……。たぶん遅くなる」 「そうか……」  厚手のジャケットを羽織って、翔弥は駅までの道を歩いた。「陽が傾くと、さすがに寒いな」彼は独り言を言って襟を立てた。  小学校の近くにある公園のそばを通り過ぎる時、翔弥はふと立ち止まった。公園では小学生ぐらいの二人の姉妹がブランコをこいでいた。 「もう暗くなるのに……」一言呟いて、彼はまた歩き始めた。  駅が見えてきた。翔弥は、ここしばらく感じていなかった胸の高ぶりを覚えていた。
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