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「ということは、ここで、」圭子が翔弥の手を取って優しく言った。「私が、抱いて、って言わなきゃそうならないよね、きっと」
圭子は右手で翔弥の手を握ったまま、左手でグラスを持ち上げて一口水割りを口に入れた。
「変わってない。狩野くん。臆病で、言うこともたどたどしくて、もどかしいしいらいらする。でも、何を考えてるのか、手に取るようにわかる」圭子は、いきなり翔弥の手首を掴み、左手の薬指にはめられていた銀色の指輪を抜き取った。
「あ!」翔弥は慌てた。
圭子はその指輪を上下逆さにして、再び翔弥の指にはめ直した。「大丈夫。狩野くん。不倫じゃないから」
「圭子さん……」
「今夜だけ。一晩だけ。お酒の力を借りて……。大人になった今なら、その手が使えるでしょ?」
2
ベッドに横たわった圭子の身体は、細く、抱きしめれば折れてしまいそうだと翔弥は思った。彼はその白い肌を見下ろして、ごくりと唾を飲み込んだ。
「翔弥くん」
「え?」いきなり名前で呼ばれた翔弥は、戸惑ったように目をしばたたかせた。
「ベッドでは私、貴男のことを『翔弥』って呼ぶから、貴男も私のことを『圭子』って呼んでくれる?」
「で、できないよ、そんな……」
「がんばってよ。ムードだそうよ」圭子は仰向けになったまま両手を翔弥に向けて差し出した。翔弥はゆっくりと圭子と身体を重ね合わせた。「がんばります。圭子さん」
「もう……」圭子は軽く翔弥を睨んで、すぐに唇を合わせてきた。圭子の腕が翔弥の背中に回された。翔弥はシーツに手をついて、体重をかけないようにしながら圭子の口を吸った。合わせられた圭子の身体は異様に熱く火照っていた。翔弥はいつしか貪るように彼女の口を吸い、舌を絡ませた。そして首筋、鎖骨を経て、舌を乳房に到達させると、大きく口を開いてその乳首を捉えた。
圭子は身体を仰け反らせて喘ぎ始めた。そしてその細い腕を伸ばし、翔弥の熱く、固くなっているものに指を触れさせた。バーで感じた冷たい手とは別人のように、その指も熱くなっていることに翔弥は気づいた。
翔弥はベッドの上で膝立ちになった。圭子は起き上がり、躊躇わずに翔弥のものを口に含んだ。そして長い時間をかけて舌と唇でその怒張したものを慈しんだ。
「あ、け、圭子……」
圭子は口を離して上目遣いで言った。「そう。その調子。いいよ、翔弥」
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