老夫婦

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「その猫がな、とにかく、死を恐れるなって言うんだ…『本当は、ずっとそばにいたんだよ。パパとママが心配で、お家の周りうろうろしてたの。でね、私が‘戻った’時、お母さんが待っててくれたように、私がパパを待っててあげるから、寂しくないよ』って」 タケルは鼻声になって言葉を終わらせた。 ユウコはユリちゃんのことを鮮明に思い出し、目が非常に潤むのを感じた。 「そういえば…」 ユウコはハッとした顔をして何かを思い出したようだ。タケルの方に身を寄せてユウコは話した。 「ユリちゃんのお通夜のとき、私はもちろんあなたも線香を絶やさないようにしてたけど、私、一瞬寝ちゃったのかなぁ…今までは夢だったと思ってたんだけどね、気がつくとユリちゃんの棺桶の上に綺麗な黒猫が座っていたの。びっくりしたんだけど、瞬きをしたらいなくなってた。あとね、スーパーに買い物に行く時、時々黒い野良猫が塀の上にいたり、草むらから私を見てたり…この辺にもまだ野良猫がいるのか…その子は衰弱もしてないし毛並みも良かったから、もしかしたら誰かの飼い猫かもとも思って何もしなかったの。」 「そう言えば、俺も、朝会社に行くために車使ってただろ?ほんとときどきなんだけど、ボンネットに黒い猫が乗っかってることがあった。あの頃は猫を見るたびにユリちゃんを思い出して辛かったから、深入りしないようにしてた。ボンネットに乗っかってる猫、警戒心が強いのかなと思ってた。俺が近づくとボンネットから降りて、ある程度離れて俺の車が出るのを見てた。」 「ユリちゃん、私たちが猫を見ると悲しむことまで予想してたのかな」 ユウコは小さく呟いた。 少し沈黙が訪れた。 「……実際、死んだらどうなるのか、怖い。でも、毎晩猫が来て安心させてくれる。」 「ユリちゃんったら、どこまでいい子なのかしら」 ユウコは手帳に挟んで持ち歩いているユリちゃんの元気な頃の写真を取り出してじっと見つめた。
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