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保険屋が来たり葬儀屋が来たり、悲しむ時間をなかなか与えられないままユウコはバタバタしていた。
ふぅ、と一息つけるようになったのはタケルの祭壇の前でお坊さんが来るのを待ってる時間だった。
ユウコのふくらはぎになにかがぶつかった。
視線を下に落とすと、黒猫がいた。
「ユリちゃんなの?」
そう聞くと黒猫は口を開かず「ママ」と言った。
ユリちゃんは口を開いて喋っていたから、不思議だった。
ユリちゃんの代理かなにかなのだろうか。
黒猫はなおもユウコの足に体をこすりつけながら、口を開かず話した。
「もうじき、全ての動物が喋れるようになるんだって!」
「そうなの?」ユウコは首を傾げながらもその黒猫を愛おしく思い、抱き上げようとした。が、黒猫は消えてしまった。
キョロキョロと辺りを見回すと、いつのまにか黒猫はタケルの入った棺桶の上に乗っかってこっちを見ていた。
「ユリちゃん、おいで」
ユウコは黒猫を抱きたかった。
が、
「ごめんねママ。ママは、まだなの。でも、安心して。私と、パパがゆっくり待ってるから。」
と言い、ふっと消えた。
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