74人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
小さな会場で、小さな葬式が終わった。
タケルの会社の人にも、特に親しい人にしか連絡しなかった。連絡しても、既に亡くなってる人もいた。
それは、タケルが生前言っていた「たくさんの人が来てわちゃわちゃするのはいやだな」
という言葉を尊重したからだ。
お坊さんがいたり、焼き場にいるときは一切猫を見なかった。
ユウコは骨壷を持って、誰も待っていない我が家へ帰った。
生きる気力を失いつつあったユウコだったが、またあの猫と喋れるのだとしたらまだ生きていたいと思い、たった一人、なんとか淡々とした生活を続けた。
毎日ではないものの、ユウコの夢の中にユリちゃんが現れるようになった。
「ママ、寂しくない?」
「少し寂しいよ。」
「パパはね、もう何も怖くないし、痛くないし、寂しくないって言ってるけどね、ママがいないのはちょっと寂しいみたい。でもね、気長に待ってるからって言ってるよ。ママ、長生きして、疲れたら休みにおいでね」
夢の中でユリちゃんはユウコにこれでもかと甘えた。
現実と錯覚するくらいリアルで、ユウコは夢の中で満たされていた。
ある日。起きて、テレビをつけると、興味深いニュースが流れていた。
『とうとう我々は猫犬を対象とした新薬の発売に踏み切りました。今後、試験を重ねた上で、大型の動物にも安全に投与できると決まった際には、また発表します』
『猫ちゃん、わんちゃんを飼っている方必見!とうとうあなたの家の子も人の言葉を話せるようになりました!詳細は対応している動物病院でご確認ください』
『こちら、鮫島動物病院二代目院長の鮫島進先生です。鮫島動物病院は1代目の院長の時から動物が人間の言葉でコミュニケーションを取れるようになる実験機構に多額の寄付をして応援してきました。早速、院長先生にお話を伺いたいと思います』
『はい、こちらの新薬ですがね、改良に改良を重ねた結果、普通の予防接種と同じ針でですね、液体を注射するだけなんですよ。副作用の心配?健康に全く害はありませんよ。ただ、どうしても個体差はあるものの、犬猫の知能指数が上がってしまうという現象は現れてしまいます』
最初のコメントを投稿しよう!