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車に乗り込んでドアをロックすると、緊張の糸が切れた僕はハンドルに突っ伏して大きく息を吐き出した。
「翔平さん? どうかした?」
「いや……人が多過ぎて、ちょっとね」
「そうよね。私も東京では満員電車に揺られてたくせに、こっちののんびりした生活に慣れちゃったせいか、何だか人混みが苦手になったみたい」
「じゃあ、車、出すよ」
焦る気持ちを抑え込んで、わざとゆっくりと車を走らせた。
立体駐車場をグルグル回りながら降りて行く。僕の頭の中も思考がグルグル回る。
この後、純花にうちに来てもらうのは危険すぎるだろうから、さっさと純花の家まで送って行こう。
いや、二人でいるところを奴らに見られていたら、純花を独りにする方が危ないかもしれない。
でも、僕の家で待ち伏せされていたら?
もうこうなったら、小山田に助けを求めるしかない。
駐車場の出口ゲートで車が詰まっていたので、素早く小山田に電話をかけた。いつもの連絡用の番号ではなく、緊急時用の番号の方へ。
この番号にかけるのは初めてで、改めて危険な状況なんだと思うと緊張で指が震えた。
「どうしました?」
すぐに出た小山田の声も緊迫していたが、その声を聞いただけで僕はホッとした。
「モールであいつらを見かけたんだけど」
「まだモールですね?」
僕の足首にはGPS監視装置が付いている。
「もうすぐ出るところだよ」
「そのまま、あなたの家に向かって下さい。すぐに行きます」
「純花は」
「一緒に連れてきてください。くれぐれも用心して」
「わかった」
用心するのは純花になのかどうかはわからなかったが……。
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