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「翔平さん? 誰と話してたの? あいつらって?」
純花が怯えた顔で助手先のドアの取っ手に手をかけた。
ここで車から降りれば、純花は幸せでいられるのかもしれない。
何も知らないまま、僕のことなどすぐに忘れて。
真っ当な世界で生きてきた純花に、僕のような男が関わってはいけなかったんだ。
なぜ、あの時、僕らは出会ってしまったんだろう。
なぜ、こんなに惹かれ合ってしまったんだろう。
一緒に生きていけないのなら、出会わなければ良かった。
君のいない世界で、僕はゆっくりと死んでいけたのに。
前の車がゲートを出て、僕はアクセルを踏んだ。
「純花、ごめん。……君を……愛してしまって、ごめん」
「私を愛してるの?」
「愛してるよ。すごく愛してる」
照れくさくて言えなかった想いが溢れ出た。
「嬉しい! 私もすごく愛してるから」
もう純花の顔には怯えた表情はなかった。代わりに満面の笑みが浮かんでいる。
もっと早く伝えれば良かった。あと何度、君に愛していると伝えられるだろうか。
こんな形で僕の正体が純花にバレるとは思わなかったが、もう隠し通すことは不可能だし隠しておきたくない。
「愛してるんだ。でも、ごめん。僕は君に嘘を吐いていた」
純花の顔から微笑みが消えた。
「キャーッ!!」
純花の悲鳴と同時に、横から車がぶつかって来た衝撃が僕を襲った。
咄嗟に伸ばした手は純花に届きさえしなくて、僕の意識はプツリと途絶えた。
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