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   ようこさん曰く、誕生日や名前がわかっているのは珍しいという話だった。  私の場合、施設の前に捨てられたとき、そのベビーシートの中にいちまいの封筒が入っていて、その中に私の名前と誕生日を書いた紙が入っていた。  施設の中には誕生日はもちろん名前だってわからなかった子どもたちばかりだった。そのたびにようこさんは名前を考える。図書館へ行ったり、自分で本を買ったり。その様子を見てきた私ならわかる。ようこさんはあふれんばかりの愛情で満ちていることを。  私のお母さんはどんな気持ちで名前を付けたのだろうか。そんなことがふと、気になってしまった。 「どうした、葵」 「あ、光」  考え事に頭を使ってふらふらと歩いていると、同い年の光が正面から歩いてきた。  ジャージ姿なのを見るに、部活帰りであると推測した。バスケ部で日々汗を流す光は、同じ高校ながらも、輝きすぎて声をかけられない。 「名前の由来について考えてて」  光はようこさんにつけてもらった名前を気に入っているようで、新しい子が入って言葉がわかるようになってきたら、毎回のように由来の話をしようとする。 「由来な・・・」 「まぁ、私が知らないんだもん他の人が知ってるわけないんだけどさ」 「確かに」  至って真面目に考えようとしていた光はそのことに気づいて、ハッとした表情で自分の部屋へと戻っていった。  今度は私に代わって光が悩む番らしい。  夜ごはん中、上の空な光を見て一つ下の音が毒を吐いた。 「馬鹿がさらに馬鹿な顔に・・・」  せめてものフォローにそうなってしまった理由を説明すると、「やっぱり馬鹿だわ」と苦い表情をしていた。  なんだか申し訳ない気持ちになった。
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