第9章 愛しいという心

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ーピンポーン、ピンポーン  その時、部屋に来客を告げるベルがなった。そのベルが鳴って一番に反応したのは隼人だった。 「和樹、お前誰か呼んだのか?」 「いえ」 「そうか……」 「でも、奈美さんには話しましたよ。ここであなたと対決することは」 「なっ!な、何を言ってる!」 「和樹さん、奈美さんって?」  見えない話に雫の頭の中に疑問が浮かぶ。以前に見た女性だろうか?話をする予定の中にそんな話を雫は聞いていなかった。 「俺のお袋だ」 「えっ」  和樹はその言葉とともに雫を握る手に力を込める。雫は握ってくれている手に自由になっている方の手も添えて縋るように和樹に身を寄せた。正直、次に続く言葉が怖かった。 「お、お前、何を考えてる!」  隼人はその言葉を聞くと立ち上がり和樹を指さして大きな声を出した。先程までの冷静沈着な姿は消えていた。 「何を考えているのかはお前じゃと思うぞ儂は。のう、隼人くん?」  和樹が声を出す前に後ろから声を掛けられ一斉にその声のする方に皆が反応した。 「お義父さん……何故ここに?」 「お祖父様!」 「えっあの時のお爺さん!」  三者三様の反応が上がった。雫はいきなり現れた水瀬に驚きが隠せなかったが、それは和樹、隼人も同じだったようだった。 「久しぶりじゃの、和樹、雫くん、もちろん隼人くんもな」 「瀬川?」    にこやかに笑う水瀬と後ろには真顔の瀬川がそこにいて、和樹は水瀬に問う前に瀬川の名を呼んでいた。  雫も瀬川の登場には二重に驚いていた。 「瀬川から隼人くんと和樹が対決すること聞いてな。それに奈美からもな」 「瀬川?お前、お義父さんと繋がっていたのか?奈美までって」  水瀬の後ろから瀬川が一歩前に出てくる。隼人の顔は真っ赤になって怒りをあらわにしている。 「隼人様、ご無沙汰しています。私の役目は和樹さんのお世話ですので、和樹さんに関わることには全て携わっております」 「そうそう、儂も和樹が大切だからの~。それに唯一の血の繋がった孫だしの」  その隼人の姿に怯む事なく瀬川は隼人と向き合ってから、にこやかに笑う水瀬に後ろに下がり水瀬に従った。  雫には以前には感じなかった威厳が水瀬から漲っているのを感じ、その空気に飲まれそうだった。 「隼人くん今回の事は全て瀬川から話を聞いた。今回の事はお前さんのやり過ぎだと儂は思っておるぞ」 「お義父さん……私は……」 「儂は和樹の側に付くと決めた。もちろん奈美もだ」 「……奈美がどうして、私は奈美の為を思ってしたのに」  怒りに満ちていた隼人の顔が雫には今では青ざめて見えた。あの強そうな姿はどこにもなかった 「お前さんは和樹のこんな真剣な姿を見ても何も感じんのか?それに既にお主には長男の弘樹くんがおるぞ、何故にそこまで和樹にこだわる?」 「……私は奈美の為に……」 「それはお主のおごりぞ。まずは奈美としっかり話すのが筋ではないのか?」  水瀬の言葉にうなだれる隼人がいた。そこには最初に雫が感じた恐怖を感じさせていた隼人はそこにはいなかった。 「じゃ、ここでの話は終わったの~。行こうか、和樹、雫くん」 「はい、お祖父様。行こうか?雫」 「えっ、え、でも!」  歩き出す水瀬らに、雫はその隼人を置いて行っても良いのかと悩みが溢れ気が付けば和樹の引っ張る腕に逆らい手を離すと隼人に向き合った。 「僕が和樹さんを幸せにしますから。僕も真剣です!」  うなだれる隼人に宣言だけをして雫も水瀬、和樹に従って部屋を出た。 「あの、瀬川さんは?」  後に続かない瀬川を心配して声を上げるが、2人は笑顔で振り返り心配はないと首をふった。その言葉を信じた雫は来た時には考えられないほど、足取りはしっかりしていた。 「お祖父様、ありがとうございます」 「なに気にするな、すべきことをしたまでだ。それよりも儂の方が雫くんに謝らなければならん。隼人くんの事をもっと早く諫める事が出来んで申し訳無かった。」 「そんな、僕はお爺さんのお陰で和樹さんを取り戻す事が出来ました。僕こそお礼しないといけません」 「あの時会ったお前さんから和樹の名が出たときは驚いたが、瀬川と奈美から聞いてここまで来て本当に良かったよ。こんな立派になった和樹を見ることが出来たからの~」 「は、は、は」と豪快に笑う水瀬に雫の頬には笑顔が浮かんだ。 「和樹、今まで何事も真剣にならなんだお前がそんな相手に出会えたこと儂は嬉しく思うぞ。儂は男同士なんぞどうでも良いと思っておる。真剣に向き合える相手はそうそう出会えるものじゃない」 「お祖父様、ありがとうございます」 「ありがとうございます」   和樹は水瀬の言葉に大きく頭を下げ、雫もその姿に倣い頭を下げた。認めて貰えているその言葉は雫の心を温かくした。  また会おうと言葉を残して水瀬は迎えに来た車に乗り込み帰って行った。
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