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あ、あのシルエットもしかして…。
やっぱり、そうだ。彼だ。
灰色の靄がかかる薄暗い世界で、おれが漸く見つけた光。その光が段々と此方に近づいてくる。
おれは嬉しくて嬉しくて、走って彼に近づいた。それはもう飼い主を見つけた飼い犬みたいに尻尾を振って。けれどすぐに、ある違和感に気付く。
待ち焦がれた彼の隣に、彼よりも少し小さな女の子が立っていた。おれたちの間だけ霧が晴れて漸く彼の顔がはっきり見えると同時に、見たくないものまで見えてしまったのだ。
手を、繋いでいる。彼が。おれの知らない、女と。
『よう藤倉、俺、彼女が出来たんだ』
少しはにかんで、嬉しそうに彼が言う。隣のカノジョも、彼に寄り添いながらふふっと幸せそうな笑みを零している。彼の隣に立っているのは少し地味だが、純粋そうで気弱そうな女の子だった。男前で優しい澤くんと相性が良さそうだと、不本意ながら思ってしまう。
『後輩の子でさ、この前告白されたんだ。お前には一番に報告しようと思ってさ』
嘘だ。嘘だ嘘だうそだ。
だってもしそんな奴が居たら、告白なんてする前におれが…。
何か言おうとするが、言葉が全く出てこない。それどころか全身が凍りついたみたいに、指先ひとつ動かせない。おれはただただそこに突っ立って、彼の次の言葉を待つしかなかった。耳を塞ぐ事も、目を覆う事も赦されずに。
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