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空に、赤い月が浮かんでいた。 禍々しい光をもって、夜の帳を照らしている。銀である筈の闇の象徴に塗りたくられたその色は、まるで血みどろみたいだと。そう誰かが呟く程に、不気味過ぎていた。 真っ赤な月が空に浮かんでいる間、ずっと、断絶魔の叫びが絶えなかった。 それは、西の大国にある、とある貴族の屋敷から発生していた。聴くにもおぞまし過ぎる程の、凄絶な叫び声。命乞いも泣き声も混じった恐怖が幾重にも重なって上げられていた。 最後の一人が終わった時・・・鮮血が流れる屋敷の中で、ただ一人、子供だけが残されていた。 真っ赤な月が、その子供に光を当てた。そうすることで、その子供の容貌を、光の下に晒した。 まだ、幼子であった。美しい赤い髪と、美しい金色の瞳の、美しい子供であった。 だが、全身が赤で染まっていた。その赤とは、血の色のことだ。その髪も、その顔も、肌も、全身も、全て血で染まっていた。 その右手に持っていたのは、大剣。子供が持つにしては不相応な巨大さで、大の大人ですら持て余しかねないそれを、子供は余裕に振り回している。その剣の刃が、最も大量の血を含んでいた。 子供の背後で、成人男性の高笑いが響いた。それは、子供にこの屋敷の住民を皆殺しにしろと命じた男のものであった。 子供は殺戮の限りを尽くした。命じられるがままに。何の疑問も抱かず。何の躊躇もせず。何の恐怖も抱かずに。 子供の全ては、血で染まっていたが、ただ、その何の感情も宿していない、人形のような金色の瞳だけが、輝いていた。それだけが、神々しい光を燦燦と発して。 事実。子供には感情が欠損していた。生まれた時からそうだった。特別な力を持って生まれた代償は感情だけでなく、痛みも、感覚も伴われていた。 それを、子供は悲しいなんて、思ったことは無い。目の前で育ての両親が殺された時も、そうだった。 夜空に浮かぶ、禍々しい月を見上げながら、子供は、その可憐な唇から、中性的な声を出した。 「────任務完了」
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