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春がまた訪れた。
生を芽吹かせる春の暖かな風が吹いて、満開に花開く植物たちを優しく撫で上げて、命よ生まれよと、働きかけている。
国中の桜の木には既に薄紅色の花びらが満開しており、雪のような花吹雪を演出している。その枝にとまる鶯が、愉しそうに鳴いているではあるまいか。まるで、春の訪れを祝福しているような風情を感じさせる。
正しく、国中、ありとあらゆる場所で、新しい一日の始まりを迎えようとしていた。
ここ、ファイバランド共和国、最大教育機関と謳われているこの国立中央学院も、本日をもって、入学式が行われていたのである。
司会を務めるは、妙齢の女性で、学院のマドンナとして有名なシア・イーロック教頭である。
校長席には、頭部が異様にでかく、身体が小学生ぐらいの大きさの、愛嬌のある皺だらけの老人、ジョン・スミス学校長が席に着いている。
そして、理事長席には・・・・・・誰も座っていない。理事長どころか、代理すら不在の状態で、進行されていたのである。
だが、それについては、例年通りなので、暗黙の了解となっている。誰もそれを咎めようとしないし弾劾すらしない。
式は滞りなく進行され、校長祝辞、理事長祝辞・・・手紙による代筆であるが・・・も終わり、そして、出席者達が唯一期待していたプログラムへと移った。
「新入生代表挨拶・・・・・・新入生代表、前へ」
新入生代表に選ばれるのは、入学前の試験で最高得点をたたき出した者である。これに選ばれた者は、これからの学生生活を約束されたのも同意だ。
一体、誰が選ばれたのだろうか・・・と、真新しい制服に身を包んだ開花する前の種たちは、期待を膨らませていた。
「はい」
立ち上がったのは、たった一人・・・。その一人に、出席していた者達全員が集中した。
学校規定の白いセーラー服に身を包んだ女子生徒が、選ばれていた。
栗毛色の切りそろえた短い髪。だが、つむじに二つ輪っかができるように結ばれた束だけ、腰まで長い。
成長前の、まだ子供の域を脱し切れていない未熟な体躯は小柄で細身である。身体付きは頼りないpが、そのすみれ色の丸い形をした瞳には強い意思が宿っていて、少女の気丈さを体現していた。
「新入生代表・・・・・・アイリ・イルミナス」
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