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椎名とハナのしるし
「あんた…………まさか往く当てないの?」
とあるマンションの一室で、この部屋の家主――椎名愛々は呆れ顔を浮かべた。
椎名の視線と発した言葉の先には、茶の間で座椅子に納まりながらもどこか落ち着かない様子の女性の客人が一人。
――一見どこにでも居そうな可愛らしい女性なのだが、椎名にとってはただの客人ではなかった。
その女性は申し訳程度の困り顔に愛嬌を上乗せした愛想笑いで言葉を返した。
「えへへ、そうなんですよお」
「『そうなんですよお』……じゃないよ、まったく! しょうがない……こっちにいる間はここに泊まりなよ。私から乗った船だ、最後まで面倒見るよ」
「あ、ありがとうございます! 今日は記念日ですね!」
「うん、違うね」
「あれ? お礼を言うところじゃなかったですか?」
「そこじゃないよ! 記念日の方だよ!」
「ええ! 椎名さんは細かい記念日は苦手ですか? 現代人向きじゃあないですねえ」
――『なんだよその現代人向きって……』という返答を飲み込んで、椎名は「はあぁ」と大きな溜息をついた。
「でも、未来の世界の発達は凄いですね!」
座している女性――織乃花子は楽しそうに云った。
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