1.ねっとりした感覚

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 その日の合コンは、まずまずの成功だった。僕は、美樹(みき)とメッセージ・アプリで友達になることができたし、おまけにデートの約束まで取り付けた。だから、帰りの電車は、久しぶりに浮かれた気分だった。スマホの最新ニュースには、今日の僕の出来事以上の記事は載っていなかった。  一方で、あの、ねっとりした感覚は、家に帰る頃には、幸いなんとも無くなっていた。いくら、残暑の最中だと言っても、汗でズボンが肌にくっつくことなんて今まで無かった。しかも左脚の膝より下の部分だけが。  その晩、お風呂でじっくり観察してみたものの、特に異変はなく、気のせいだと思うことにして、その日は終わらせた。  初めてのデートの日、僕は、白いコットンパンツの上にブルーのリネンシャツを合わせ、ベルトとローファーは茶系で(そろ)えた服装だった。都心ホテルのラウンジでランチをするには少しラフだったかもしれなかったが、トム・フォードのサングラス、ガガミラノの時計、ルイヴィトンのセカンドバッグと、小物は高級感のあるものを揃えたつもりだった。  ところが、待ち合わせのロビーに現れた美樹(みき)の服装に僕は度肝を抜かれることとなった。それは、濃紺の光沢のあるワンピースで、肩や胸が露出しており、ほどほどに短くて、まるでカンヌのレッドカーペットに降り立ったペネロペ・クルスみたいな感じだった。  中二階のパティオの面したベランダ風のレストランの籐の椅子に腰を下ろすと、背後からの陽光が木々の葉を明るく染めて、夏はまだ暫くは続くことを感じさせた。ホテルの近くにあるショッピングモールを歩いてきたのか、美樹の肌は薄っすら汗が滲み、それが女の色気を醸し出している。  シャンパンのグラスを重ねる時、「ねぇ、何に乾杯するの?」って美樹に訊かれ、僕は、「名前が同じ僕たちに。」と言った。「じゃぁ、それに。」と微笑みながら彼女は続けた。僕は、こんな午後は、何度もやって来ないだろうな、と感じ、一瞬一瞬の時間を大切に噛みしめようと思った。  それにしても、彼女の胸は、華奢な肩に反比例して大きく膨らんでいた。真正面に座っている僕は、まさに目のやり場が無い状態だった。仕方なく、ウェストのラインに目を落とすと、その曲線が実に女性的だった。  その時だ!左脚の(くるぶし)の上辺りが(かゆ)くなり始めたのは。
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