1.ねっとりした感覚

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 美樹と楽しい会話をしている間も、僕の脚のゆるゆる具合はいっこうに回復する気配が無かった。怖くて触ってはいないが、どうやら(ひざ)のすぐ下の部分が細くなっているようだった。つまり、肉が溶けて(くるぶし)の方に溜まっていっているみたいな感じがした。  しかもジトっとして、パンツの裏にくっつく感じがかなり気持ち悪い。  少し上の空になり、話についていけなくなってきた。すると、美樹が真顔になって、あらたまって、こう切り出した。  「あなたって、いつも何か哀しみを秘めているような感じがするんだけど。私の気のせい?」  ハッとして、僕は答えに窮する。今の状況を説明すべきかどうか、咄嗟に考えて、やはり止めておく。普通じゃない状況を彼女の目の前で露出するには躊躇(ためら)いがある。ずっと付き合ってきた恋人ではないわけだから。驚いて、きみ悪がるに違いない。     「うん、実は、ちょっと病気かもしれない、心配な点があって、明日にでも医者に行こうかと思ってるんだ。」  「そうなの? 大丈夫なの?」  「うん、まだ、わからない。診てもらうまでは。」  「そう。それで。大事じゃなきゃいいわね。」  「あぁ。そう願うよ。」    こんなにドロドロに溶け出していて、大丈夫なわけないのだが、できるだけ平静を装うことにした。心臓がバクバク鳴っているのが、耳の裏側から聞こえてくる。  帰りはどうする? 椅子から立ち上がれるのか? 歩けるのか?  そうするうちに、フルコースの料理は、デザートも終わり、後は珈琲となって、彼女が「ちょっと」と言って、トイレに向かった。脚の様子を見るチャンスが訪れた。  僕は、おそるおそる白パンツの(すそ)を上げてみた。    「うん? えっ?」  そこには、何も変わりの無い、いつもの僕の左脚があった。皮膚もドロドロになっていないし、肉も変形していない。  立ち上がってみる。普通に立てる。  なんだ!なんだ!なんだ!  どうなってる? どうなってる? どうなってる、いったい?  そうだよ、気のせいだよ、脚が溶けるわけないよ。  いや、でも、確かに、あの感覚。あれは、何?  混乱する頭で、なんとか考えを巡らして、少しわかったことがある。  どうやら、あの感覚は、彼女といる時だけ起こる現象らしい。  彼女が原因? だとしたら、ぼくは?        
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