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キラキラ光る東京の夜景。それが綺麗であればあるほど、物悲しくなる。
これから美樹がやって来る。あの、脚が溶けるという奇怪な体験について話さなければならない。彼女は、それを知って、どう反応するのだろう? 頭がおかしい男性だと思って、離れていくのかも。
ほら、やって来た。派手に手を挙げて、こっちに向かっている。
僕には、それがスローモーションのようにゆっくりと見えた。白いひざ下丈のスカートにトップスはネイビーの光沢のあるゆったりしたシャツ、ピンクのトップハンドルのバッグがアクセントになっている。
近くまで来て、僕が暗い表情をしているのを見て、心配そうに話し始める。
「ねぇ、病気って、大丈夫だったの?」
「あぁ、それがどうも。」
「どうも?」
「うん、精神的なものらしいんだ。」
「そう。」
僕は、あの時の、彼女と一緒にいた時の、症状というか、怪奇現象というか、幻覚というか、について説明した。真面目に、真剣に、包み隠さず。
すると、彼女は、途中でプッと吹き出して、「本気で言ってるの?」と笑った。
「ねぇ、私の気を惹こうとしているの?」
「いや、そんなんじゃなくて。」
「ミステリアスな男がモテるって、誰かから聞いたの?」
「うううん。」
「じゃぁ、言うけど、今、左脚はどうなってるの?」
「どうって?」
そう言えば、今のところ何も感じないでいる。この間とは違う。
そんなことを考える暇もなく、美樹は畳みかけてくる。
「見せなさいよ、ほら。」
「うん?」
「出しなさい、ほら。私が見てあげる。」
彼女が大胆にめくりあげた僕のパンツの裾は、いつもと変らぬ左脚の膝から下の部分だった。
「何よ、普通じゃない。」
「えっ!」
僕もその部分を凝視した。溶けてない。ドロドロでもベタベタでもない。
「じゃぁ、あれは? あれは一体?」
「嘘つき。」と彼女は、微笑みながら言ってくる。怒ってる風ではないので安心する。
それで、僕の方も思わず微笑み返してしまう。
美樹は、「ねぇ、お酒、おかわりして、乾杯しない。」と提案する。
「いいね。で、何に乾杯するの?」
「あなたが元気になったことに。」と彼女は舌を出す。
「溶けずに君といられることに、かな。」と僕。「でも、心は溶けてるけどね。」
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