1.ねっとりした感覚

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1.ねっとりした感覚

 あの晩が初めてだった。脚に異常を感じたのは。  僕たちの前には、テーブルを挟んで、比較的綺麗に見える女性が5人並んで座っていた。こちら側には、会社の同期が5人、興味津々な顔をして並んでいる。独身の男女が10名。人は、こうしたパーティ形式の会合を「合コン」と呼ぶ。  右斜め前の女性、「みき」と名乗ったその女性に、右隣りの隆志がすかさず「どんな字を書くのですか?」と訊く。  「美しい、樹木の樹と書くんです。」と彼女。  「えっ!」と僕は思わず大声を上げた。その場の全員がこちらに視線を向ける。  「僕は、同じ字を書いて、『よしき』と読むんです。」と僕。  彼女が目を見開いて、こちらに微笑みかけてくる。  「そういう男性の名前があることは知っていましたが、初めてお逢いしました。」  「ぼ、僕もです。」  隆志がちぇって小さく舌打ちするのを僕は聞き逃さなかった。彼は、第一印象で彼女が一番だったのだろう。奴には悪いが、こちらがアドバンテージを握ったわけだ。  最初は5人とも同じように見えていた彼女たちだが、自分と同じ名前だとわかると、急に美樹(みき)が一番美しく見えてくるから不思議だ。肩にかからないくらいの、ほどよい長さの髪は少し茶色く染められている。大きくはないが丸くて形の良い眼、細くて長めの鼻、唇は薄めでピンク系のルージュが目立つことはない。うん、なかなかの美人だ。  シャネル風でベージュのツイード・スーツの襟もとには、真珠のネックレスが見える。残念ながら、上半身しか見えないが、きっと立ち上がると、真っ直ぐで細い脚が見えることだろう。  彼女を含め近くの人達の話題を追いかけながら、僕はちらりちらりと彼女を観察していた。細くて高い声、これも僕の好み。だけど、声は女性によっては作っていることもあるので要注意だ。以前、バーで知り合った女で、きれいな声だなと思って付き合ってみたら、実は普段は野太い声だとわかって失望したことがある。ベッドの上で野獣のように吠える女だった。まあ、そんな過去はともかく、今のところ、彼女はいい線行ってるのだ。  そんな時だった。僕は、左脚の(すね)あたりが(かゆ)くなった。そして、スラックスの裏地に肌がねっとりくっつくような感覚を覚えた。なんだろう、これは?こんなことは、初めてのことだった。
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