発覚

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 視線を、手の形をした化物に落としまま、イツキは言葉だけをこちらに投げる。だから、彼女は知らないのだろう。こちらから見る光景がどのように映っているのかを。 「……そ、れは、人の手、ですか。一体、どうして」  声が震えた。腕のテトラポッドが現れてから初めて、彼女はこちらを見た。そして、こちらの顔を視界から外すように双眸を閉じて、頷く。 「そうか。受け入れ難いもの、なのだろうな」  衣擦れの音がする。片手で四つ腕のそれを抱き上げ、イツキが踵を返す。彼女が顔を上げて霧の先を見たような気がした。そう思って、霧に目を向ければ人のような影がいくつも並んでいる。どの影も濃霧の中ではっきりとは輪郭がつかめない。だが、人と呼ぶには歪な影だった。背から腕が生えてるように見えたり、足が四つに見えたり、頭が二つに見えたり。その姿を呼ぶのにふさわしい言葉はわからないが、直近で聞いた言葉を当てはめるならば、それは鬼であろう。 「お前たち、なんだ揃いも揃ってぞろぞろと。そのように心配をするから、こやつも不安になって来てしまったのだろうに」  呆れた声を作るイツキに、影の中の一つが声を返す。 「イツキ様に何かあっては困るのです。依代たちの、そして同胞の記憶を連綿と受け継ぐあなた様は、我らの宝なのですから」 「わかっている。必要以上には関わらない。すぐに行くから、戻っていろ」     
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