発覚

2/15
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 本に登場する彼は人だった。彼が人としての資格を失ったと言葉を残した時でさえ、やはり人だった。己に人の資格を失ったのだと言えるのは、己が人であるが故だ。この本は終始においてどこまでも人の心の一旦を見せ続けた。だから思う。己が認めてさえ、いかようになれども、人からその資格が剥がれ落ちることはないのだと。どこまで行っても人であると言うのなら、人の資格が失われることはない。仮に人としての資格を持ち合わせていないのなら、それは始めからなのだろう。人間失格ではなく、人間欠格。  本を捲る手がふと止まる。ベッドに近づいてくる足音があった。他の同居人のところへ訪れていた足音が、こちらのベッドへと向いたのだ。さっとカーテンが開く。 「おはよう。元気か。後輩」  ボリューム感のある明るい茶髪と整えられた黒い髭が、何となくプリンを想起させる男。それが暑苦しい笑みを浮かべて挨拶を投げ込んでくる。記憶を辿り、煩わしいと顔に書いた上で挨拶を返す。 「こんにちは。お昼ならとっくに過ぎています。元気だったらこんな所にはいませんよ、先輩」  坂戸海斗。大学のゼミで知り合った先輩。大学生のこちらに対して、先輩は大学院生。  さしたる理由もなく大学を選んだ。何がしたい訳でもなく、だからこそ単位を貰う簡単な方法を探す。先輩にこき使われることでゼミの単位を貰おうという腹積もりで今がある。実際、昨年に一人そのルートを通って卒業を迎えている。実績ある道筋に足を踏み入れることができた訳だ。その一貫として先日、お使いのためにバイクを走らせることになった。結果として、こんな所に居るのだが、それを先輩のせいと言うのは少し酷だろう。とは言え、ここで返す言葉は決まっている。 「何しに来たんですか?」     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!