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冷やりとした感触が額に有った。手を伸ばし触れて確かめるそれは、人の手だった。とてもか細く、繊細な手だ。
ゆっくりと開けた瞳で見上げる先に、闇は無い。白い靄のような光を吸い込んで、寝ていた部屋の形が見て取れる。体には、着物を継いで作られた一枚の大布がかけられていた。
「目が覚めたか。夜中には朦朧としていたようだが、今は大丈夫そうだな」
仰向けに寝かされた隣、一人の女性が膝を着いてこちらを覗いていた。この冷たい手が夜半から触れていた気がする。だとすれば、ずっとこうしていてくれたのだろうか。
「無理はするなよ。飲ませた薬が効いているだけだ。大人しくしていろ」
その人を見上げると、顔がはっきりと見える。こちらを気遣う声とは裏腹に乏しい表情。
「このような荒屋ですまないな。壁も無く、雨露がしのげれば十分。そういうものしかここには無いんだ」
うすい目鼻立ちをしており、肩口から流して紐で結わえた長い髪は光を返さない黒色。着古した薄手の藍の着物に身を包んだ彼女の体に視線を落とすと、右手の袖は肩の付け根から芯が通っていないようにだらりと垂れており、本来あるべき厚みが見えなかった。
「どうかしたか?」
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