発覚

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 彼女が首をかしげるのには答えず、視線で思わず尋ねていたこととは別のことを聞く。 「……ここは。それに、あなたは」  こちらの額に手を添えたまま、彼女が微笑んだ。 「私はイツキという。ここは、廃れた土地だ」  背後、深く霧が立ち込める屋外をイツキと名乗る女性が振り返る。 「深く沈んだ小さな盆地の底。霧に埋もれた名もない集落だ。元は戦地でな。深い霧と身動きの取れない地が、起死回生の逆転劇を幾度も演出した。多くの将兵が命を散らした場所になる。今では霧の先に鬼が住み着いたと噂も広まり、戦場にはならなくなったがな。故に、この地は“おにがすみ”と呼ばれる。鬼が住む、鬼が霞む、という意味を持つ」 「おに、がすみ? 鬼? 確か、先輩の用事を終えた帰りに、濃霧に遭って――」 「山の急斜面を転がり落ちてきたのだろう。ひどい有様であったよ。共に落ちてきた唸りを上げる鋼の獣に至っては、恐らく死んだのであろうな」 「……鋼の獣?」 「ああ。見たことも無い獣だ。黒い車輪のような足を前後に生やした姿で、一つ目が眩しいほどに光っていてな。低く延々と唸っていたが、夜が明ける頃には静かになった。瞳から光が消えているのも確認した」  記憶を辿るようなイツキの物言い。違和感を覚えて尋ねる。     
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