発覚

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発覚

 ベッドの上でゆっくりと身を起こす。天井から吊るされたカーテンに遮られ、ベッドの周囲と窓から見える青空以外には何も伺えない場所。清潔感を感じさせる白いカーテンによって作られた同じような個室は、この場所に全部で六つ。だから、正しく言えば個室ではなくて相部屋。刃物で付けられたような傷を含めた打ち身などの外傷と体力の限りを絞り尽くしたような衰弱を理由に担ぎ込まれ、行き着いた先がここだった。騒がしくはない場所だ。ただ等間隔に並んだベッドには住人たちが居るため、静寂には遠い。だが、それが無音よりは心地よい。  人の生活音を背景に、隣室の住人から貰った本のページを捲る。テーブルに押さえつけるように片手で本を広げて、抑えたその手の指先でページを捲っていく。逆の手を見ればベッドの上で手持ち無沙汰な様子でだらりと寝ている。無駄な肉はついていない無骨な男の手。その手を見て双眸を細める。直視をするだけの整理はまだ着いていない。  捲る本のタイトルは、人間失格。有名な作家が書いた、有名な本、らしい。本を貰う時にそう聞いた。数時間で読み終えてしまう本を、しかし何ども捲った。     
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