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カラスはなぜいつも単独行動なのだろう、とアーノルド・B氏は思った。
でもそれは、彼のカン違いかもしれない。彼が見かける時にかぎって、たまたま一羽なのかもしれない。いつもは群れているかもしれない。B氏が見かける時だけ、カラスは一羽なのだ。
いつの間にやら墓石の前に一人の老人が立っていた。
B氏はすぐにその男が墓守だとわかった。男は農夫が着るような服を着ており、その両手はごつごつしていた。顔に刻まれたしわは深い。目は落ちくぼんでいる。
B氏はベンチから立ち上がった。なぜかはわからないが、墓守にあいさつしをしようと思ったのだ。不思議だった。B氏はそれほど外交的な性格ではないのだ。そしておそらく墓守もそうだろう。でもなぜか彼は墓守のところへ向かった。
街路樹をこえ、墓地の中に入ったとき、B氏は奇妙なことに気がついた。
墓地の中にはたくさんの墓石が並んでいた。どれも同じような大きさの白い墓石だ。しかし、墓守の前の墓石だけが、列から離れた場所に建てられているのだ。
その墓の周りは雑草でおおわれており、ところどころに白詰草が生えていた。
B氏は列になっている他の墓石たちを見まわした。どれも老人の前の墓よりかは、手入れされているようだった。
B氏は再び墓守の方を見た。そしてようやく理解した。
「そうか、あれは無縁仏の墓なのだな」
無縁仏。
供養する親族や縁者を持たない者たちの眠る場所。
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