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花火の余韻が消え、無数にまたたく星が夜空の主役にとって代わった時。
僕の唇はゆっくりとメイの唇から離れた。
僕にとって初めてのキスだ。
メイの唇はとても柔らかくて、熱かった。
わずかに潤んだ彼女の瞳が目に入ったとたんに、急に恥ずかしくなってしまい、僕は彼女から一歩だけ下がった。
「ねえ、ジュンペイ」
親を求める子猫のような甘い声が耳をくすぐった。
僕は彼女から顔をそむけて「なに?」と聞き返す。
すると彼女は逃げる僕を追いかけるように、顔を覗き込んできた。
「ハーモニカ。吹いて欲しいな」
「うん」
言われるがままにポケットからハーモニカを取り出して口をつける。
メイの唇とは対照的に、ひんやりとした感覚だ。
ぼーっとしていた頭が冴えてきたところで、僕は『きらきら星』のメロディーを奏でたのだった。
「ジュンペイのハーモニカ。大好きだよ」
そうつぶやいた彼女は、いつもと同じように歌詞を口ずさんでいる。
二人で一つになった音楽が、星空に吸い込まれていった。
今までとは違った幸福感が僕の体を温かくして、晩秋の冷たい風が心地良く感じられる。
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