第十三話

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 指の隙間から赤く晴れた頬が目に入ってくる。  僕は思わず眉をひそめた。 「大丈夫?」 「ああ、余命は短けえが、体だけは頑丈でな。メイのパンチ一発くらいなら唾をつけておけばすぐ良くなるさ」  唾をつければ良くなるって、ずいぶん古い迷信って聞いたことがあるけど、本当なのだろうか……。  変なことに僕が気をとめているうちに、ゲンさんはモップを手に持って、ぐいっと顔を覗き込んできた。   「しかし、本気か? メイと恋するなんて」  奇襲のようなつっこみに、顔がかっと熱くなり言葉がとっさに出てこない。  そんな僕を見たゲンさんは、モップで床を拭きながら大きなため息をついた。   「はぁ……。まあ、人の恋路をとやかく言うつもりはないけどよぉ」  そこで一度言葉をきったゲンさんは、グッと表情を引き締めた。   「それなりの覚悟は必要だぜ。なにせ俺たちには『余命』がつきまとってくるんだからな」  腹に響く重い言葉だ。  自然と口もとが真一文字に締められていく。  ゲンさんは僕から目を離し、拭いている床を見つめながら言った。   「来週には全員で死神チェックを受ける。そこでジュンペイとメイも『死亡予定日』が分かるはずだ」 「死亡予定日……」     
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