第一話

2/17
前へ
/225ページ
次へ
◇◇  猛暑日の連続する夏が異常気象から通常へと定義が変わったのは、もう六十年も前。  文部科学省、厚生労働省、気象庁の三省庁の主導で、全国の小中高の夏休みの始まりが『梅雨明け』からと定められたのは四十年前。  そして梅雨明けが、例年よりも十日も早いと、気象庁の誇るスーパーコンピューター『FUURAI』がはじき出したことにより、全国の高校生たちが歓喜にわいたのが今年だ。  高校二年の僕、滝田順平(たきたじゅんぺい)もまたその歓喜の輪の中にいたうちの一人であった。  灰色の鬱憤をもたらしていた期末テストが無事に終わり、今朝の僕は駅から学校までの道のりを弾むように駆けていた。母さんから受け継いだ柔らかな髪がさらさらとなびき、思春期の男子にしては白い肌がわずかに桃色に染まっているのが自分でも分かる。 「おはよう! 順平! 今日はやたら元気だな!」 「当たり前だろ! 明日から夏休みなんだぜ!」  すれ違った友人と軽い調子であいさつを交わしながら校門をくぐった。  今日は終業式で明日からは待ちに待った夏休みだ。  だがその前に、高校二年生にはとある検査がある。     
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加