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その話題で一色に染まる教室に入った僕は、誰とも会話を交わさずに自分の席についた。
と、そんな僕の背中に声をかけてきたのは、後ろの席に座る親友の日下陽太であった。
「順平は怖くねえのかよ? 『死神チェック』」
「ああ、別に」
そっけない僕の答えに、陽太は夏前にも関わらずよく日に焼けた黒い顔を肩越しにぬっと出してきた。
「なんだよ、つれねえなぁ。俺なんか心配で心配で、夜も眠れなかったんだぜ」
「おまえ、昨晩のグループチャットで『もう限界、寝るわ』って言ってたじゃんか。そのあとは、既読もつかなかったけど、寝ないで何してたんだ?」
「うっせえ! そういうへりくつっぽいとこ直さねえと、いつまでたっても童貞のままだぜ!」
「おまえが言うな!」
そう突っ込んだところで、黒い西瓜のような陽太のひたいを軽く叩く。あとは互いに笑顔になれば、いつの間にか朝のホームルームの時間が訪れる。そこまでが僕らの日常だ。
ただこの日がいつもと違うのは、担任の古河亮二先生が、採尿ビンのようなプラスチック製の小さな容器を生徒たちに配り始めたことだろう。
彼は添えつけてあるシールに名前を書かせた後、一人一人から髪の毛を一本ずつ受け取り、ビンの中へと入れていく。
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