牝闘犬 血痕とチョコレート

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牝闘犬 血痕とチョコレート

 オープンフィンガーグローブで固められた拳が、片世泳(ピョン・セヨン)の顔を掠めた。世泳は僅かに上半身を屈め、それを最低限の動きで躱す。パッドの入っていないスポーツブラに包まれた乳房がゴム鞠のように弾んだ。  世泳はジャブで男の腹を打つ。並のファイターなら十分にダメージになりうる打撃だったが、男は素早いフックで肉薄した世泳を振り払いつつ退いた。  世泳は身長160cm、体重は48kg。伸びやかな四肢にはカモシカのように引き締まった筋肉が健康的な隆起を作っている。  対して、男は190cmに98kgの巨体のメキシコ系だ。階級差が大きすぎる。まともに戦っても、勝ち目はない。  まともに戦うことも、本当はこのリングでは求められていない。  男は典型的なアウトボクシングタイプの総合格闘家だ。重心を前に置き、手技をベースにフックと前蹴りを活用して距離を取って戦う――リーチの差でインファイトを仕掛けるしかない世泳にはきつい相手だ。  世泳は男のジャブを払い、フックを掻い潜る。屈む動作をそのまま次の攻撃につなげる。  テコンドー特有の豪快な足技。地面を蹴って相手に飛込みつつ放つ、跳び横蹴り。     
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