牝闘犬 血痕とチョコレート

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 世泳の足刀が男の額を打つ。おおお、と観客が歓声を上げた。  全体重の乗せた大技を食らって、男はよろめく。体重差のせいでノックアウトする程の効果はない。世泳は追いかけつつボディに左右のフックをねじ込む。  拳が男の腹でバウンドした。筋肉の鎧だ――世泳は思う。間違いなく、効いていない。  男の両手が世泳の頭を抱え込む。あっ、と思ったときにはもう遅かった。クリンチ――首相撲の体勢に追い込まれる。首相撲はお互いの頭を抱え込む――だが、この体格差では世泳はまともに踏ん張ることが出来ないくらいに身体を釣り上げられてしまう。  男の膝蹴りが世泳の脇腹に突き刺さった。強烈な嘔吐感。運が悪ければ、ひびくらいは入ったかも知れない。  さらに顎に膝蹴り。マウスピースが衝撃で飛んでいった。確実に、「やばい」被弾だった。身体から嫌な感じで力が抜ける。  男は世泳の側頭部に肘に叩きつけ、極めつけに首投げ。プロレス仕様のスプリングが入ったリングに転がる。  世泳は自分を照らす眩しすぎる電照が七色に見えた。瞳孔が馬鹿になっている。  男の影が視界に映った。まだ――まだ、戦いは終わっていない。     
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