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緑 桜は何度も咲きほこる
春が終われば桜は散る。夏が来れば桜の桃色は消え、葉の緑が一面を覆う。それが自然の摂理。
今年は散るのが早かった、風が強かったからだろうか。なんて思いながら私は一本の木を見ていた。桜の木といわれなければわからない、緑色をしたどこにでもある木を、私はずっと見上げていた。
私の親友だったあの子の命は、この桜とともに散ってしまった。彼女が描いた最後の絵、それがこの桜の木。キャンバスから零れんばかりに描かれた満開の桃色は、コンクールで見事一位に輝いた。それが一か月前、そして彼女が自殺したのがその二日後のことだった。もう一か月もたったんんて信じられない。ついこの間のことのように感じる。
正直にいって私には彼女がなぜ自殺したのかわからない。
「一位になったの! お母さんが褒めてくれたのよ!」
なんて言って桜のような満開の笑みを浮かべていたというのになぜ。
この桜の木の元へ来るのも、もう何回目だろうか。彼女が描いた桃色がなくなった今でも気がつくとここへ足を運んでしまうのだ。いつからか私はここで不思議な声を聞くことになった。
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