解けたのは魔法か呪いか

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 八月下旬、夏休み。その日のわたしは母親から命じられて近所のスーパーまで買い出しに出ていた。茹だるような暑さのなか、そこまで中身の入っていないエコバッグを肩に掛けて家までの道のりをひたすらに歩く。  せっかく化粧をしたのに、汗で台無しになってしまうかも。とか、ふとももに汗をかいてるからスカートが貼り付いて不快だな。とかそんなことを考えながら、早足かつ大股で家を目指した。  ふと、わたしの耳は蝉の鳴き声以外の音を捉えた。軽快なリズムの足音。初めは「この炎天下の中、ランニングをしている人もいるんだな。大変そうだな」と思ったのだけれども、やがてその足音の主は呼び声を伴ってわたしの鼓膜を振動させた。 「リーーツーー!」  知った声だった。周りに人がいないことを素早く確認して、振り向きたくない気持ちをどうにか抑えながらぐるりと振り向く。最後に会ったときと比べて、随分様相が違っていた。だからわたしは思わずその人を凝視してしまった。  半袖の黒いシャツにカーキ色の七分丈カーゴパンツ。大きなスポーツバッグに、あとそれから運動靴。わたしの前に駆け足でやってきたその人は「リツひさしぶり!」と言って太陽のような笑みを浮かべた。 「……ひさしぶり」 「買い物してたの?」     
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