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そう心の奥で毒づきながら陽は足早に歩を進めた。自宅まで自転車で二十分、あいにく自転車は一昨日盗まれた。共働きの両親に迎えを頼むこともできない。十六にもなると自立心でも芽生えるのか、頼ろうという気さえ起きはしなかったが。電車に乗るほど遠くもなく、近いかと聞かれると近くはない距離を重い足を引きずりながらなるだけ早く歩くしかなかった。もちろんバスでの帰宅も考えたが、こんな田舎ではバスの本数などたかが知れている。一時間待つくらいならば歩く、それが答えだった。
暗く重い雲、気圧のせいか重い頭、疲れ切って足までも重い。
「重いなぁ……」
信号の押しボタンをぽちりと押しながら、いつもどおりなかなか変わらない信号をぼうっと見つめた。心なしか道路を走る車がいつもより速く見えるのは、急いた心のせいだろうか。車の排気ガスの匂いと雨の香りが混じりなんともいえない熱っぽい空気が鼻腔をくすぐる。どうも家に辿りつく前に降られそうだ。
雨宿りができそうな場所を頭の中で模索しながらいると、信号がちかりと色を変えた。それに合わせるかのように大きめの雨粒がぽつりと脳天をうつ。その一粒を皮切りにしたようにザアザアと降りだす雨は容赦なく陽を濡らしていく。
「やばっ」
大きすぎる雨の音が耳を支配した。ドダドダと建物や車に当たっては跳ね返る水から逃げるように走り出す。疲れた、重い、なんて言っている場合ではない。陽は走った。ここから一番近くて、雨宿りができる所を探す。さらに言えばタオルがあれば最高、お風呂まであれば至上。
そこまで考え、公園を勢いよく右へ曲がった。家に帰るには遠回りだが、この状況を脱するための最良のルートへ。
走って、濡れて、辿りついた家の戸を乱暴にガラっと引いた。
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